オーバーツーリズムとは、観光客が増加しすぎることにより、観光地や地域住民、さらには観光客自身に悪影響を及ぼしてしまうことです。オーバーツーリズムは問題視されており、特に日本では、インバウンド需要の増加に伴いオーバーツーリズム問題が深刻化しています。今回は、オーバーツーリズムとは何か、問題点や事例、対策について解説します。
オーバーツーリズムとは
オーバーツーリズムとは、観光客がキャパシティを超えて著しく増加することです。日本語では「観光公害」とも呼ばれます。
観光客の増加によって、その地域の自然環境や環境、地域住民の生活などが害されてしまいます。観光客の満足度が低下してしまう可能性も否定できません。
オーバーツーリズムという言葉は、2016年にアメリカのニュースメディアで初めて登場したと言われています。
オーバーツーリズムと判断するための明確な基準はありません。しかし、その地域住民が反発したり、環境破壊が進んだりすれば、オーバーツーリズムに陥っていると言えます。
オーバーツーリズムの例
オーバーツーリズムの例としては、以下が挙げられます。
- 公共交通機関や施設の混雑
- 観光客によるポイ捨て問題の深刻化
- 観光施設の増加による景観の悪化
- 観光客が増えたことによる騒音被害
- 観光客と地域住民間のトラブルの増加
- 犯罪行為の増加
さらに、オーバーツーリズムによって観光客の満足度が低下し、将来的に観光客が減少することも、オーバーツーリズムと言えます。
日本におけるオーバーツーリズムの現状
日本でも、オーバーツーリズムは問題視されています。
日本政府観光局の「年別 訪日外客数, 出国日本人数の推移」によると、2013年には10,363,904人であった訪日外国人数は、2016年には24,039,700人、2019年には31,882,049人まで増加しました。2020年以降は新型コロナウイルスの影響で減少しましたが、2022年には3,832,110人にまで復活しています。
2023年は、さらに訪日外国人観光客の受け入れ制限が緩和されたころで、多くの外国人観光客が日本を訪れています。
出典:日本政府観光局「年別 訪日外客数, 出国日本人数の推移」
観光客が増加したことで問題となっているのが、オーバーツーリズムの問題です。実際、2023年8月26日には、岸田総理が沖縄県の首里城で、「オーバーツーリズムについての対策を、今秋にも政府として取りまとめる」という方針を表明しました。
このように、政府もオーバーツーリズムを重要な課題と捉えており、対策が求められています。
オーバーツーリズムの問題点
オーバーツーリズムは、その地域の環境や地域住民の生活などに大きな影響を与えます。ここでは、オーバーツーズリムの問題点を、以下の3つに分けて解説します。
- 自然環境への影響
- 地域住民への影響
- 地域経済への影響
- 観光客への影響
自然環境への影響
オーバーツーリズムによって、自然環境が破壊されるリスクが懸念されています。
たとえば、自家用車で観光地を訪れる観光客が増えれば、排気ガスによって森林にダメージが与えられます。また、動物に人間の餌を与えて生態系が変化したり、ゴミのポイ捨てによってビーチが汚れたりなど、自然環境への影響は甚大です。
地域住民への影響
観光客が大量に押し寄せることで、公共交通機関や施設がパンクし、地域住民の生活に影響を及ぼすケースも多く見られます。
たとえば、地域住民の足となるバスを観光客が占領すれば、スムーズな移動が妨げられるでしょう。ほかにも、騒音被害に苦しめられたり、違法民泊の増加よってトラブルが発生したりなど、さまざまな影響が考えられます。
地域経済への影響
オーバーツーリズムは、地域経済にも影響を与えます。
観光客が増加すると、その分地域経済は活性化する、と考えている方は多いでしょう。もちろん、観光客が多くのお金を使えば、その分地域経済は潤います。しかし、お金をあまり使わない観光客によって施設や飲食店などが混雑すれば、経済的な損失につながるのです。
さらに、オーバーツーリズムの結果観光地の魅力が低下してしまうと、将来的に観光客の集客が難しくなり、地域経済が悪化してしまうリスクがあります。
観光客への影響
観光客自身にも影響を与える点は見逃せません。
たとえば、公共交通機関が混雑していて観光を楽しめなければ、観光客の満足度は低下します。「綺麗な海を想像していたが、ゴミがたくさん浮いていた」「行きたかった飲食店が全て満員で入れなかった」など、オーバーツーリズムによって、観光体験が悪化してしまうことは、大きなデメリットです。
オーバーツーリズムの事例3選
ここでは、オーバーツーリズムが実際に発生している事例と対策を3つ紹介します。
京都
京都は、海外からの観光客が集中し、オーバーツーリズムが深刻化しています。観光客が集中し、街が混雑したことで、以下のような問題が発生しているのです。
- 住民の生活に支障をきたし、観光客の受け入れに対して消極的になっている
- 街の景観が損なわれている
- 観光客の満足度が低下している
- 観光産業の人の雇用が不安定になっている
そこで、京都市観光協会は「持続可能な観光地づくり」を提唱し、オーバーツーリズム問題を解消するため取り組みを講じています。事業のミッションは、観光客が一部の時期・場所に集中することを防ぎ、1年を通して、京都市域全域で観光客が楽しめる環境を作ることです。
たとえば、以下のような取り組みを行っています。
- 文化や習慣が異なる外国人観光客に対して、マナーを守るよう啓発するリーフレット「AKIMAHEN」を配布する
- 注意事項をピクトグラムでわかりやすく示したステッカーを配布する
- AIを活用して観光快適度を予測し、オフィシャルサイトで発信する
- ガイドブックに載っていないような名所や見どころを発信し、観光客の分散化を図る
沖縄
沖縄県の石垣島では、観光客の集中による人手不足問題を抱えています。新型コロナウイルスの影響で人員を削減した飲食店や施設では、急な観光客の増加に対応しきれなくなっています。
また、竹富島では、観光客の出すゴミに悩まされています。竹富島には、ペットボトルや缶などを処理する施設がありません。そのため、島民がゴミを分別して、島の外に送って処理をしています。分別を行わない観光客は多く、ゴミ処理にかかる費用や島民への負担が増えています。観光客から入島料を徴収しているものの、徴収率は低く、財源確保の目処が立っていないのが現状です。
参考:NHKクローズアップ現代「どうする“集まりすぎる”客 観光地とオーバーツーリズム」
イタリア
「水の京都」として知られるイタリアのベネチアは、世界的な観光地として高い人気を誇っており、長年オーバーツーリズム問題を抱えています。
- 観光船が街の景観を損ねている
- 観光船の波が地盤に悪影響を及ぼしている
- 住民の満足度が低下した結果、ベネチア本島の人口が大幅に減少している
そこで、以下のような対策を行っています。
- 船のサイズに上限を設け、航行を禁止する
- 日帰り観光客から「入域料」を徴収する
オーバーツーリズムの防止・抑制に対する観光庁の取り組み
観光庁は、オーバーツーリズムを問題視しており、オーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する関係府省庁対策会議を開催しました。そして、対策方法を「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」にまとめています。
具体的には、以下のような対策を挙げています。
観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応 | 観光客が集中する地域における交通手段や観光インフラの充実 |
実情に応じた入域管理 | |
異なる需要に対応した運賃設定の促進 | |
空いている時間帯・時期・場所への誘導・分散化 | |
マナー違反を防止・抑制できるような啓発活動 | 統一ピクトグラムを作成する |
防犯カメラの設置を進める | |
地方部への誘客の推進 | 地方の観光地の魅力を向上させる |
観光客を受け入れるための環境の整備を進める | |
地域住民と協働した観光振興 | オーバーツーリズム対策を進めるため、自治体や事業者が地域住民に積極的に働きかける |
詳しくは、以下をご覧ください。
参考:オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ
オーバーツーリズムへの3つの対策
オーバーツーリズム問題は、1社・一部の住民のみで解決できるものではありません。自治体が中心となり、積極的に対策を講じることが必要です。
最後に、オーバーツーリズムの解消・緩和効果が期待される対策を3つ紹介します。
- 観光客の制限
- 観光客分散化の推進
- 手ぶら観光の推進
観光客の制限
オーバーツーリズムを根本的に解消するためには、観光客の制限が必要です。実際、民泊を禁止して観光客の流入を防いだり、島を一時的に閉鎖したりするケースもあります。
しかし、観光客を制限することで、観光産業の売上が減少してしまうデメリットは見逃せません。持続可能な観光地を実現するためには、宿泊業や飲食業など、民間企業も協力し、官民一体となってオーバーツーリズムの改善に取り組む必要があります。
観光客の分散化
観光客を分散化させることで、繁忙期の人手不足問題や、観光客が過密化する地域での諸問題を緩和できます。観光客を制限するわけではないため、売上が減少してしまうリスクは低減できます。分散化で観光客の満足度が向上する効果も期待できるでしょう。
観光客を分散化させるためには、「時間」「時期」「場所」を分散させることが大切です。
時間の分散化としては、観光客が少ない朝や午前早くの時間帯を活用することが挙げられます。開館時間を早めたり、朝に観光できるプログラムを用意したりすることで、観光客が午後に集中することを防げるでしょう。
時期の分散化としては、閑散期にも楽しめるスポットやイベントなどを発信することが効果的です。たとえば、桜や紅葉の名所であれば、夏の新緑やお祭り、冬の雪景色をアピールする、という方法があります。
場所の分散化としては、観光地としての知名度がそこまで高くないエリアの見どころを発信する方法が挙げられます。特定の観光地への一極集中を避け、地域全体の経済が活性化する可能性が期待できるでしょう。
手ぶら観光の推進
手ぶら観光の推進は、オーバーツーリズム問題の解消や観光満足度の向上につながる施策です。
手ぶら観光とは、観光客が少ない荷物で観光できることを指します。移動中の荷物が減ることで、観光客の利便性が向上し、満足度アップが期待できるのがメリットです。
さらに、移動がしやすくなることで、分散化の促進や、公共交通機関ではなく徒歩で移動する観光客が増えること、公共交通機関で荷物を置き、スペースを占領する観光客の減少、といった効果も見込めます。
まとめ
オーバーツーリズムは、観光客の数が観光地のキャパシティを超えてしまい、さまざまな問題が発生することです。観光客によるゴミ問題や騒音、公共交通機関の混雑などが例として挙げられます。
オーバーツーリズムに対応するためには、自治体と民間企業が連携することが欠かせません。そして、観光客の分散化や手ぶら観光の推進など、積極的に対策を講じる必要があります。オーバーツーリズム問題に対応してきた地域の事例も参考に、適切な取り組みについて検討することが大切です。