起業してホテル経営に挑戦したいと思った際、ホテルをM&Aして開業するという方法があります。M&Aを活用することで、開業のハードルが低くなり、よりスピーディーに事業を軌道に乗せられるでしょう。今回は、M&Aを活用してホテルを購入する方法と、成功のポイント、注意点などを解説します。
Contents
ホテル・旅館業のM&Aの動向
ホテル・旅館業は、M&Aが盛んに行われている業界です。コロナ以前は、インバウンドの影響で市場規模が拡大していました。さらに、2020年の東京オリンピック開催に向けて、ホテルの建設が相次ぎました。しかし、コロナ禍で観光客や出張利用者が激減し、大打撃を受けます。その結果、投資回収が難しくなり、再編が進んだのです。
新型コロナウイルス感染拡大の影響が落ち着いた現在、国内外から多くの観光客が訪れ、ホテル・旅館業は復活の兆しを見せています。
事業規模を拡大しようとする事業者や、ホテル・旅館業に新規参入する事業者が増えました。そのため、現在では「新規事業参入や事業規模拡大のためのM&A」も活発に行われているのです。
個人でもM&Aでホテルを購入できる!
個人でも、M&Aでホテルを購入することは可能です。M&Aというと、大企業が行うものというイメージを持っている方も多いでしょう。しかし、近年では中小企業や小規模事業者、さらに個人もM&Aに取り組める環境が整ってきています。
最近では、オンライン上でM&Aの売却案件を探し、購入できるマッチングプラットフォームも多数登場しています。案件探しから交渉、成約までをオンラインで完結させられるため、ハードルが低く気軽に取り組めるのがポイントです。
M&Aのスキーム
M&Aにはさまざまなスキームがあります。代表的なスキームは、株式譲渡と事業譲渡の2つです。それぞれの概要やメリット・デメリットは以下のとおりです。
スキーム | 概要 | メリット | デメリット |
株式譲渡 | 売り手の株主から保有株式を買い取り、経営権を引き継ぐスキーム | 資産や契約関係、許認可など、経営資源を全て引き継げる | 負債も引き継ぐため、リスクが伴う ある程度の買収資金が必要 |
事業譲渡 | 事業の全部または一部を引き継ぐスキーム | 特定の事業のみを選んで買収できる 株式譲渡と比べると、買収資金が少なく済む | 契約や許認可は引き継げないため、再契約・再取得しなければならない |
M&Aを活用してホテルを開業するメリット
M&Aを活用してホテルを開業するメリットは、以下のとおりです。
- 売り手の経営資源を活用できる
- 既存事業とのシナジー効果が期待できる
売り手の経営資源を活用できる
M&Aを活用することで、売り手の経営資源を活用できるのは大きな魅力です。
ゼロからホテルを開業するとなると、土地や建物設備の確保、許認可の取得、従業員の獲得など、さまざまな準備が必要です。
一方、M&Aでホテルを購入することで、既存の経営資源を利用できます。そのため、ゼロから起業するよりもスムーズに開業でき、事業を成長させられるでしょう。
既存事業とのシナジー効果が期待できる
すでに事業を営んでいる場合は、既存事業とのシナジー効果が期待できます。
ホテル事業を経営している場合は、M&Aによって事業規模を拡大させることで、スケールメリットが期待できるでしょう。
また、飲食業や不動産業、旅客運送業のように、ホテル事業と関連性のある事業を経営している場合は、双方の事業を成長させられる可能性があります。
M&Aを活用してホテルを開業する際のデメリット・注意点
一方、M&Aを活用してホテルを開業する際は、以下の点に注意が必要です。
- 簿外負債を引き継ぐ可能性がある
- まとまった資金を用意する必要がある
- 従業員が反発して離職する可能性がある
簿外負債を引き継ぐ可能性がある
M&Aで売り手から引き継ぐのは、資産だけではありません。基本的には、負債も含めて全てを引き継ぐことになります。
特に、簿外債務には注意が必要です。簿外債務とは、貸借対照表には記載されない債務のことです。中小企業は税務会計で決算書を作成するため、退職給付引当金や賞与引当金などが計上されていないケースが多くみられます。また、債務保証や訴訟リスクを抱えている可能性も否定できません。
簿外債務や訴訟リスクなどに気づかないまま買収を進めてしまうと、買収後に投資回収が難しいことが判明したり、思わぬトラブルに巻き込まれたりする恐れがあります。
まとまった資金を用意する必要がある
M&Aを行うためには、まとまった資金を確保しなければなりません。
M&A仲介会社や専門家のサポートを受けてM&Aを行う場合は、売り手に支払う買収代金だけでなく、報酬の支払いも必要です。
自己資金からまかなえない場合は、資金調達を実行する必要があります。
もちろん、ホテルを開業する際も、一定の初期投資が必要です。ゼロから開業する場合に比べると、M&Aを利用する方がコストを抑えられる可能性もあります。
従業員が反発して離職する可能性がある
売り手の従業員がM&Aに反発し、離職してしまうリスクも否定できません。特に、M&Aによって待遇が悪化したり、社内体制や業務内容が大きく変化して混乱が生じたりした場合は、従業員が離職してしまう恐れがあります。
優秀な人材が離職すると、新たに人材を確保しなければなりません。当初予定していた買収の効果を発揮できない可能性があります。
M&Aを成功させるポイント
M&Aを成功させるためには、以下のポイントが重要です。
- デューデリジェンスを実施する
- 統合手続きに注力する
- 専門家のサポートを受ける
デューデリジェンスを実施する
買収前にはデューデリジェンスを実施し、売り手を精査しましょう。
デューデリジェンスとは、財務や法務、税務など幅広い項目について、交渉時に開示されている情報と実態に乖離がないか、どのような買収リスクがあるかなどを洗い出す調査です。弁護士や税理士など、専門家に依頼して進めます。
デューデリジェンスには以下のような種類があります。
- 財務デューデリジェンス:実際の財務状況や簿外債務の有無をチェックする
- 税務デューデリジェンス:納税や申告漏れがないかをチェックする
- 法務デューデリジェンス:債権・債務や訴訟リスクの有無をチェックする
- 人事・労務デューデリジェンス:組織体制や社会保険加入の有無、給与や残業代の支払い状況をチェックする
- ITデューデリジェンス:使用している情報システムやセキュリティリスクをチェックする
- 環境デューデリジェンス:環境汚染のリスクやSDGsへの対応をチェックする
専門家に依頼するため、費用や時間がかかります。しかし、このプロセスを怠ると買収後に大きな損害を被るリスクがあるため、デューデリジェンスを徹底することが大切です。
統合手続きに注力する
M&A成約後は、統合手続きに注力しましょう。
M&Aの成功とは、「買収できること」ではありません。買収先とうまく統合し、当初期待していた成果を出してはじめて成功と言えます。
スムーズな統合を実現できるよう、従業員にM&Aに至った背景や今後の方針を説明したり、組織体制や業務プロセスを見直したりしましょう。特に、売り手の従業員の理解を得て信頼を獲得することが欠かせません。1on1面談を実施して、経営者自らが従業員とコミュニケーションをとることも有効です。
専門家のサポートを受ける
M&Aを行う際は、専門家のサポートを受けましょう。
自社が売り手に直接交渉することも可能ですが、交渉がうまく進まなかったり、法的に適正な方法でM&Aを実施できない可能性があります。M&Aには多くのプロセスがあり、自社だけで行うのは難しいでしょう。適正な価格で買収できないリスクもあります。
M&Aの相談ができる専門家としては、M&A仲介会社やFA、弁護士、公認会計士などがあります。個人がM&Aを実施する際は、マッチングサービスを活用するのもおすすめです。
M&Aを活用してホテルを開業しよう
M&Aを活用することで、売り手の経営資源を使ってスムーズにホテルを開業できます。ホテルをゼロから開業するためにはさまざまな準備や費用がかかります。ホテル事業に参入したい方は、M&Aの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
ホテル経営を効率化するためには、セルフチェックインシステムの導入がおすすめです。詳細は以下よりお問い合わせください。