近年、民泊サービスは旅行者の増加とともに大きく注目を集めています。
しかし、法令に基づかない違法民泊が社会問題化しており、安全面や近隣住民とのトラブルが多発しています。
本記事では、違法民泊とは何か、どのような罰則が存在するのか、そして正しい民泊運営のポイントを分かりやすく解説します。
違法民泊とは何か
まずは違法民泊の基本的な定義と、どのように発覚するのかをみていきましょう。
違法民泊とは
民泊は、本来は旅館業法や住宅宿泊事業法などの法令に基づいて届け出や許可を取得し、一定の基準を満たしたうえで運営されるべき宿泊サービスを指します。
しかし、それらの手続きを怠り、勝手に住宅の一部やマンションの一室を旅行者に提供している事業者や個人が存在しています。
このような法令違反の状態で行われる宿泊提供がいわゆる“違法民泊”です。
特区民泊などの制度を利用せずに安易に収益化を図り、法的手続きを踏まないケースも多く見られます。
こうした行為は利用者の安全対策や防災・衛生面での基準を満たさないことにつながり、近隣住民とのトラブルなど社会的問題を引き起こす要因となっています。
違法民泊が発覚する主な理由
違法民泊は認識不足や故意による無許可営業の結果として行われるため、思いがけないところから発覚することがあります。
多くの場合は近隣住民の苦情をきっかけに行政が調査を進めるケースや、保健所による抜き打ち検査で露見するケースが目立ちます。
これらのきっかけを経て違法性が確認されれば、厳しい罰金や是正命令が科されることになります。
なぜ違法民泊は起きるのか
違法民泊が増え始めた背景には、訪日外国人旅行者の急増や民泊仲介サイトの普及など、多角的な要因が挙げられます。
ひとつずつ見ていきましょう。
- 利用者や事業者の認識不足
- 民泊新法と規制の影響
利用者や事業者の認識不足
民泊運営を始めるにあたって、実際には旅館業法や住宅宿泊事業法など複数の法令の知識が必要です。
ところが、簡単に部屋を貸し出して短期収益を得られるという表面的な情報だけが広まり、必要書類や設備要件を知らない事業者が参入してしまうことがあります。
さらに利用者も、予約サイトで安価あるいは好立地の物件を選ぶだけで、許可の有無を確認せず利用する傾向があり、違法民泊の増加を助長しています。
民泊新法と規制の影響
2018年に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)は、年間営業日数180日以内という上限や管理業者への委託義務など、従来にない新たな規制を伴う法律です。
一方で、この規制強化に対応できず、届出を敬遠してあえて無許可のまま民泊を続ける事業者も一定数存在します。
また、特区であれば日数制限がないなど地域によって要件が異なるため、誤解や混乱が生じていることも背景の一つです。
違法民泊における罰則とは
違法民泊ではどのような罰則があるのでしょうか。具体的な罰則について詳しく見てみましょう。
- 無許可営業による罰金
- 住宅宿泊管理業者委託違反
- 届出内容の虚偽申告や未申請
無許可営業による罰金
管轄の自治体に無届のまま営業を行っている事例では、最大100万円以下の罰金や営業停止命令が科される可能性があります。
行政による調査の過程で虚偽申告と判断された場合、さらに厳しい処分が下されることも珍しくありません。
何ら手続きを行わない無許可状態は、利用者と周辺住民が負うリスクを考えても非常に危険な行為とされます。
住宅宿泊管理業者委託違反
民泊新法では、物件の管理を正しく行うために専門の住宅宿泊管理業者に管理を委託するよう義務付けられています。
もしこれを無視して自力で管理を行ったり、管理業者としての登録がない個人に任せたりすると、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
利用者の安全確保やトラブル対応の観点でも、適切な管理体制は不可欠です。
届出内容の虚偽申告や未申請
形式的には申請をしているものの、実際の営業実態や物件情報が届出内容と異なるケースも問題視されています。
偽りの住所や設備情報を提出していたり、変更届出を怠っていたりすると、悪質とみなされ厳しい罰則の対象となります。
正確な情報を提出することは、適法な供給体制の第一歩となる重要事項です。
違法民泊の具体的事例
では実際にどのような民泊が違法民泊としてとりしまられているのでしょうか。
具体的な事例を見ていきましょう。
- マンション36室での無許可運営
- 許可番号の偽装ケース
マンション36室での無許可運営
マンションの部屋をまとめて借り上げ、実質的に宿泊施設として運営していた事例が発覚しています。
住居用としての名目があるため契約自体は成立していましたが、実際は不特定多数を受け入れていたため、旅館業法違反とされました。
部屋を大規模に転貸する場合には、特に住宅用途との区別を明確にする必要があります。
許可番号の偽装ケース
全く関係のない他の宿泊施設の許可番号を自社物件に流用するなど、悪質な偽装行為も確認されています。
こうした企業や個人は摘発時に逮捕や罰金刑に処されるだけでなく、社会的信用を一挙に失墜させることになります。
利用者の目線からしても非常に危険な行為であり、予約サイト上で許可番号を確認するなどのチェックが重要となります。
違法民泊の問題点と影響
では違法民泊はどのような問題をもたらすのでしょうか。
違法民泊がもたらす負の影響について、近隣住民や利用者の観点から確認していきましょう。
- 近隣住民に及ぼす影響
- 衛生管理・安全性における不備
- トラブルや苦情の増加
近隣住民に及ぼす影響
違法民泊が周囲に与える最大の負担は、利用者による生活リズムやマナーの乱れに起因するトラブルです。
とりわけ、共同住宅では騒音やゴミ出しの不備など、住民との摩擦が可視化されやすい傾向にあります。
これらのトラブルは地域コミュニティに負担を与え、共同生活の秩序を乱す要因にもなりかねません。
衛生管理・安全性における不備
正式な許可を取得していない事業者は、保健所からの衛生指導を受けることがなく、清掃や換気、リネン管理がおろそかになりがちです。
さらに消防設備の設置義務を守っていない場合もあり、万一の火災や事故が起きた際に十分な対応ができない恐れがあります。
利用者にとって安全・快適な宿泊環境を提供できないため、深刻な被害を招くリスクが否定できません。
トラブルや苦情の増加
違法民泊には問い合わせ窓口が明確に設置されていないことが多く、利用者が困ったときや近隣住民が苦情を申し立てたいときに対応先がわからない場合があります。
さらには、両者の間に管理者として仲介する存在が不在なことが多いため、些細な問題から深刻な衝突に発展しやすいです。
結果として、地域社会における民泊の評判全般が下がってしまうことが懸念されます。
合法的な民泊運営のためのポイント
トラブル回避や安全確保のために、正しい手続きと基準に則った運営が求められます。
運営に必要なポイントを確認していきましょう。
- 運営に必要な手続き
- 設備基準や安全対策
- マンションやアパートでの管理規約確認
運営に必要な手続き
民泊を始める前には、事業形態に合わせた手続きを正しく進める必要があります。
ひとつずつ見ていきましょう。
旅館業法に基づいた許可の取得
旅館業法を利用する場合は、まず都道府県や市町村の窓口で必要書類を提出し、設備基準をクリアしなければなりません。
具体的には、客室面積の要件のほか、共同浴場やロビーの設置基準などが定められています。
これらをしっかり整えた上で許可を得ることで、安全かつ長期的な宿泊サービスの提供が可能となります。
住宅宿泊事業法(民泊新法)への届出
住宅宿泊事業法では、都道府県や政令指定都市などの行政窓口への届出が必要になります。
年間営業日数180日以内という制約があるため、物件をフル稼働させることは難しいかもしれませんが、その分手続きは旅館業法よりも簡便です。
事業者としては、自身のスタイルに合わせて柔軟に運営スケジュールを組み込むことが求められます。
特区民泊の利用条件
特定のエリアが国家戦略特区に指定されている場合、日数制限がなく、比較的自由度の高い営業が可能となります。
ただし、特定のエリアとなるため、誰もがすぐに活用できるわけではなく、エリアごとに独自の要件をクリアする必要があります。
特区民泊を検討する場合は、まず対象地域の自治体に問い合わせ、要件や申請手順を確認することが大切です。
設備基準や安全対策
公衆衛生や防災面の基準をクリアするためには、定期的な清掃や設備点検が不可欠です。
ひとつずつ見ていきましょう。
消防設備と衛生基準の適合
万一の火災を想定したスプリンクラーの設置や消火器の備え付けはもちろん、火災報知器の定期点検も必要です。
衛生面では、シーツやタオルなどリネン類の適切な交換や、共用部分のこまめな清掃が欠かせません。
定期的に保健所の指導を受けながら、法令の求める基準以上のクリーンな運営に努めることで、利用者の満足度と安心感が高まります。
標識や運営書類の準備
正しく許可を取得した施設であることを示すために、施設の入口や客室に標識を掲示する必要があります。
また、宿泊者名簿や緊急時の対応策をまとめた書類など、運営に必要な書類も整備しなければなりません。
これらを的確に整えることで、宿泊者と近隣住民の双方に安心感を与え、トラブル回避にもつながります。
マンションやアパートでの管理規約確認
集合住宅での民泊運営では、管理組合の規約やオーナーの許可を得ることが不可欠です。
規約で宿泊施設としての用途が禁止されている場合、法令上は問題なくとも運営を続けることは難しくなります。
また、セキュリティや共有スペースの扱いなど、他の住人と衝突しないようなルールづくりが大切になります。
違法民泊にならないために
民泊は旅行者や地域に新たな収益機会をもたらす有益な仕組みである反面、法的要件を守らない違法民泊には大きなリスクが伴います。
無許可営業が発覚すれば高額な罰金や懲役が科されるほか、利用者や近隣住民とのトラブルが深刻化しやすいため、安易な考えでの参入は危険です。
安全性と快適性を両立した合法的な運営を目指し、正しい手続きを踏み、公的機関や専門家の指導を得ながら事業展開を行うことが、長期的な成功と地域との信頼関係につながるといえます。