コラム, ホテル経営

なぜホテルは地方創生に役立つのか?ホテルの取り組みと事例を紹介

コラムホテル経営

近年、地域の人口減少や観光需要の変化により、地方の活性化が社会の大きな課題となっています。人や資金を呼び込むためには、都市部との連携だけでなく、地域独自の魅力を掘り起こすことが必要です。
そこで注目されるのがホテル業界の果たす役割です。観光客やビジネス客を迎える拠点として、ホテルは地域文化や食材を積極的に取り入れ、多くの人に地域の良さを伝える場を提供しています。
本記事では、ホテルが地方創生にどのように貢献しているのか、具体的な事例や運営のポイント、地方ホテルの課題と対応策まで詳しく解説します。

地方創生とは何か


地方創生とは、地方都市の人口減少や経済の停滞といった課題を解決し、地域社会を活性化することを目指す取り組みを指します。
地域経済の衰退は観光客の減少や商店街の空洞化を招きやすく、一度悪循環に陥ると元の活気を取り戻すことが難しくなるのが現状です。
このような悪循環を防ぐためにも、地域内での雇用機会の創出や、若者が地域に留まる仕組みを整えることが重要とされています。
また、地域の資源や伝統文化を保護しながら観光客や移住者を呼び込む仕組みづくりも必要です。現在、多くの自治体や事業者が地域の魅力を再確認し、新たな視点で事業を展開しています。

ホテルが果たす地方創生の重要な役割


ホテルは地域に外部からの人の流れを生み出し、経済や文化活動に大きく貢献する存在です。ここではその具体的な役割を3つの観点からご紹介します。

  • 宿泊施設としての集客力・経済効果
  • 観光資源の魅力向上・地域文化の発信
  • 雇用の創出・地域経済への貢献

宿泊施設としての集客力・経済効果

ホテルが地域に集客力をもたらす最大の要因は、観光客やビジネス客を効率的に受け入れられる点にあります。宿泊拠点が充実していると、イベントや展示会などの大規模誘致も容易になり、地域全体が活性化しやすくなるのです。
加えて、宿泊客の消費は地元経済にも大きな影響を与えます。飲食店やレンタカーなど関連サービスへの波及効果により、地域の経済循環を強化することができます。
結果として、ホテルへの投資や関連施設の開発は、地域雇用の増加や新規事業の立ち上げなどにも良い影響を及ぼし、長期的な地域活性化を後押しします。

観光資源の魅力向上・地域文化の発信

ホテルは、地元ならではの文化や食、風土を訪問者に届ける役割を担っています。
例えば、地元の食材を使ったレストランや伝統工芸品を取り入れたインテリアなどを取り入れることで、宿泊客にその地域ならではの滞在体験を届けることが可能となります。
また、スタッフが観光案内やイベント情報を提供することで、地域に埋もれがちな魅力を掘り起こすことにも繋がります。特に体験型の観光プログラムをホテルが積極的に提案することで、地域の新たな楽しみ方を見出す機会を生み出します。
こうした取り組みは、地域を丸ごと“体験型の舞台”に変える効果を持ち、観光資源の魅力アップやリピート率の向上に寄与しています。

雇用の創出・地域経済への貢献

ホテル運営には多種多様な職種が必要になります。フロントスタッフはもちろん、客室の清掃を担当するスタッフ、ルームサービスを提供するのであれば調理を担当するシェフや、それらすべてのホテルスタッフを統括したり、ホテル全体をマネジメントしたりする担当者などが活躍し、地域の人材が地元で働き続けられる仕組みをつくります。
さらに、ホテルが安定的に稼働すると、関連ビジネスの発展も期待できます。ランドリーサービス、農家や漁師からの食材調達、地元企業とのコラボ企画など、多方向的な連携が進むのです。
こうした雇用の創出は、若者の地元離れを防ぎ、高齢化が進む地域にとって貴重な労働力を確保する観点からも非常に意義のある取り組みとなります。

地方創生に成功したホテル事例


実際に地方創生に成功しているホテルには、歴史資源やエコ活動など、それぞれの地域に根差した独自の取り組みがあります。

本章では具体的な取り組みの例をいくつか紹介します。

  • 歴史的建造物や古民家を活用したホテル
  • 持続可能な地域活性化を目指すエコホテル
  • 地域イベントや地元商店街と連携するホテル
  • 街そのものをホテルにする分散型ホテル

歴史的建造物や古民家を活用したホテル

古い建物に新たな価値を生み出すことで、独自の魅力を持つ宿泊施設を実現する手法が注目されています。
伝統的な木造建築や蔵などをリノベーションし、訪問者にタイムスリップしたような体験を提供することができます。
これらの施設は地域の歴史や風情を象徴し、そこにしかない世界観を演出します。その結果、地域文化や伝統工芸をより深く理解してもらいやすく、大切に保存していく原動力にもなるのです。
歴史的建造物の再活用は、景観を守るだけでなく、住民が誇りを取り戻すきっかけにもなります。世代を超えたコミュニティのつながりを強化し、訪問者と地元住民との交流を自然に生み出す場としても効果的です。

地域の空き店舗を改装「SEKAI HOTEL」

例えば大阪を中心に「地域全体をホテルに見立てる」というコンセプトで運営されているSEKAI HOTELは、商店街の一角に点在する空き店舗を改装し、地域に溶け込む滞在スタイルを提案しています。個々の客室や共有スペースが街の機能と接点を持ちやすい構造となっているため、観光客と住民の交流を促進しやすいのが特徴です。

現代アートと融合したユニークな施設「白井屋ホテル」

また群馬県前橋市にある白井屋ホテルは、現代アートや建築デザインを融合させたユニークな宿泊施設として2020年にリニューアルオープンしました。
地域文化や芸術との融合を目指し、地元食材を活かした飲食事業にも力を入れています。
ホテルそのものが町のシンボル的存在となり、地域の人々が新たなアクティビティを楽しむ場が創出されています。
これらの施設は地域の魅力発信だけでなく、雇用や産業創出面でも寄与し、地元の人々が誇れる観光資源として着実に評価を高めています。

持続可能な地域活性化を目指すエコホテル

近年注目されているホテルが、環境に配慮したエコホテルです。太陽光や地熱などの自然エネルギーを活用し、プラスチック削減や地元食材の使用などを徹底することで、サステナブルな滞在体験を提供する動きが広がっています。
環境倫理を大切にする旅行者からの支持を得やすく、さらに地域の豊かな自然を保全する上でもメリットが大きいのです。こうしたエコホテルを中心に、地域自体のブランドイメージを高める効果も期待できます。
また、エコホテルは長期的に見て維持コストを抑える可能性もあり、地域全体にとっても環境負荷の軽減と経済活性化を両立するモデルケースとなっています。

自然環境への配慮と地産地消を推進「星のや富士」

日本では、星野リゾートが各地で環境に配慮し、持続可能な地域活性化を目指したホテル運営を行っています。

例えば星のや富士では、富士山麓の森に調和するような設計で自然環境を壊さないように配慮されています。
またプラスチックの使用を最小限に抑え、リサイクルを推進している他、地元の食材を積極的に活用した地産地消のメニューを提供しており、ラグジュアリーとサステナビリティの両立を実現したモデルケースといえます。

エネルギー効率の最大化で持続可能なホテル運営「エコロジーガーデン」

長野県にある白馬リゾートホテル「エコロジーガーデン」では、地元の水力発電を利用した電力供給でエネルギー効率を最大化する取り組みを実施。
地元で採れたオーガニック野菜を中心にした食事の提供や、環境教育プログラムを提供することで地域の生態系を守る活動をサポートしており、地元経済との強い連携で、地域振興にも寄与しています。

地域イベントや地元商店街と連携するホテル

地域の祭りや食イベントと連携することで、ホテルは集客力を飛躍的にアップさせることができます。例えば特産品を使ったフェアや地元の芸能を楽しむイベントをホテルと商店街が共同開催すれば、宿泊者だけでなく地域の方々にとっても意義のある催しとなります。
ホテルと商店街の共同プロジェクトは、しばしば新たな観光ルートを生み出し、街を巡る動線を増やすきっかけとなります。訪問者にとっては地元の人との交流方法が広がり、魅力的な体験機会が生まれます。
このような協力体制は、地域全体を巻き込んだ経済効果やコミュニティ形成にも繋がり、持続的な地方創生の土台を築く重要な施策です。

地元の魅力を提供する「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」

新宿にあるONSEN RYOKAN 由縁 新宿は、日本の伝統文化を現代的にアレンジした温泉旅館スタイルのホテルです。
地元の商店や職人との連携を特徴としており、例えば周辺の商店街を「観光資源」として紹介し、飲食店や小売店で使えるクーポンを提供したり、地元のイベント(祭りやフリーマーケット)に合わせた宿泊プランを企画するなど、地域と連携した運営を行っています。

街そのものをホテルにする分散型ホテル

近年注目されている分散型ホテルとは、地域の複数の建物を宿泊施設として一括管理することで、“街そのものをホテルにする”という新しいビジネスモデルです。
既存の空き家や古民家を組み合わせて活用するため、大規模な新築工事が不要で環境負荷も抑えられます。
分散型ホテルは観光客に日常生活へ溶け込むような滞在体験を提供できる点が特徴です。地域住民とのコミュニケーションや防災面での連携も高まり、街が活気を取り戻すきっかけになります。

歴史ある城下町の古民家を分散型ホテルに「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」

愛媛県大洲市にあるNIPPONIA HOTEL 大洲 城下町は、歴史ある城下町を舞台に複数の古民家を改修し、それぞれを客室やレストランとして活用しています。街全体がホテルとして機能し、城下町ならではの風情を体感できるのが魅力です。
滞在者は地元の人々と気軽に交流できるため、“観光する”というよりも“そこに暮らす”ような体験が可能になります。利用されずにいた空き家を資源として再生し、経済効果だけでなく景観維持の面でも高い評価を得ています。

伝統工芸や職人文化を体験できる分散型ホテル「BED AND CRAFT」

富山県南砺市にあるBED AND CRAFTは、南砺市の伝統工芸や職人文化を体験できる宿泊施設です。古民家を改装し、宿泊者が町全体を探索できる分散型ホテルとして運営しています。
地元の伝統工芸職人と連携することで宿泊客が体験できるワークショップの提供や、地元の酒蔵や飲食店と提携した特別メニューやツアーの企画などを行い、地域の工芸産業の活性化に成功。若い職人の雇用を創出する他、国内外の観光客から高い評価を受け、リピーターを獲得しました。

地方創生を促すホテル運営のポイント


地域に根ざしながらも新しい付加価値を生み出すために、ホテルができることはなんでしょうか。

本章では、地方創生を促すためのホテルの運営ポイントを紹介します。

  • 地域特性を活かした宿泊プランの設計
  • 持続可能性を重視した地域住民との連携
  • DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用

地域特性を活かした宿泊プランの設計

地域ならではの食材を使ったコース料理や、地元の祭り・伝統行事への参加プランなどは、他エリアとの差別化を図る大きな要素となります。観光客が“ここでしか体験できない”魅力を感じれば、リピート率や口コミ評価も向上します。
また、地元の職人によるワークショップや自然体験プログラムなどを積極的に企画すると、観光客が深く地域文化に触れる機会が増えます。このような体験型プランは宿泊者だけでなく、地域の人々にとっても新しい交流の場を生むメリットがあります。
プランを成功させるためには、現地の素材や文化をよく知るスタッフやパートナーとの連携が欠かせません。地元リソースを活かすことでドラマティックな旅の思い出を作り、多くの人を再訪に導くことが可能になります。

持続可能性を重視した地域住民との連携

地域の環境保護や景観維持は、ホテル運営においても大きな課題です。自然資源を守りながら観光客を増やすことで、住民の暮らしにも良い影響を及ぼし、長期的に魅力ある地域づくりが可能になります。
たとえば、地元農家からの直送食材を使う取り組みや、エコツーリズムを活かしたプランの提案は、経済活動と環境保護を両立させる手段として効果的です。地元住民にとっては収益向上やモチベーションアップにも繋がります。
何より大切なのは、地域の人々と継続的に協議しながら計画を進めることです。住民との信頼関係が築ければ、ホテル活動が地域に溶け込み、観光客にも安心して過ごしてもらえる空間を提供できます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用

近年はオンライン予約やモバイルチェックインなどの導入で、効率的な運営が可能になっています。人手不足やコスト削減をサポートすると同時に、観光客にとってもスムーズな観光体験を提供できる利点があります。
地域全体の観光情報を一元化したプラットフォームを作ることで、ホテルと周辺施設、交通機関などを連携させやすくなります。これにより、観光客が地元の魅力的なスポットを見落とすことなく楽しめるようになります。
さらに、SNSや動画配信サービスを活用して地域文化を積極的に発信すれば、ホテルのブランド強化だけでなく、地域そのものを国内外にアピールできる効果が期待できます。

ホテル業界が直面する課題と解決策


地方ホテルの運営には人口減少による宿泊需要の減少や、労働力の不足など、都市部のホテルとは異なる特有の課題が存在します。

本章では、地方のホテル業界が直面する課題とその解決策をひとつずつ解説します。

  • 宿泊需要の減少
  • 人材不足と高齢化
  • 施設の老朽化

宿泊需要の減少

地方ホテルにおける課題のひとつが、宿泊需要の減少です。
地方都市では企業の撤退や縮小が進み、ビジネス需要が減少しています。観光客やビジネス客が減少し、ホテルの稼働率が低下しているのです。
また、季節やイベントによる需要の偏りが激しいのも課題のひとつです。

解決策としてあげられるのが、ターゲットを多様化することです。
地域特有の魅力を発信し、家族連れやひとり旅の旅行者、ワーケーション客など新たな客層を開拓することで、既存の客層以外の客を呼び込み、宿泊需要の低下を防ぎます。
また地域に根ざした宿泊施設であることを活かし、地域を深く体験する滞在型観光を提案することで、長期滞在プランを提供できます。
さらに日本全体でインバウンド需要が高まり、海外旅行客が増加している点に着目し、多言語での案内や文化体験プランを導入することで訪日観光客を取り込むことができます。

人材不足と高齢化

地方のホテルでは、働く人材に対しても課題があります。
若年層の人口流出により、サービススタッフや管理人材が不足しているのです。また従業員の高齢化が進み、運営の負担が増加しています。

人材不足や働き手の高齢化に対する解決策として考えられるのが、地域人材の活用です。
地元住民の雇用を積極的に行うことで、地域との結びつきを強化することができます。また、外国人留学生や技能実習生を活用し、多文化対応力を高めることも解決策のひとつとなります。
さらに根本的な業務の効率化のため、AIやIoTを活用してフロント業務や清掃作業を効率化することも、有効な手段です。

施設の老朽化

地方のホテルでは、施設の老朽化が進んでいます。
老朽化した施設は顧客満足度を低下させる原因となる可能性がありますが、修繕費や改装費用の捻出が難しい現状があります。

解決策として、段階的なリノベーションの検討があります。
必要な箇所から優先して改修することで、金銭的負担を分散させることができます。また補助金や助成金など国や地方自治体の支援を活用することで、改修コストを軽減させることができます。
さらに、環境に配慮したリノベーションを行うことでサステナブルな経営をアピールすることが可能です。

地方創生におけるホテル業界の未来


ホテル業が持つポテンシャルを最大限活かすことで、地方都市の活性化はさらに加速するでしょう。

人口減少や経済停滞といった課題が深刻化する地方では、ホテルという“宿泊拠点”が外部からの流入を促すだけでなく、地域の魅力を掘り起こすための起点となり得ます。これは地方創生において非常に強力な手段です。
実際の成功事例では、大胆なリノベーションや街ごとホテルを目指す分散型モデルの導入など、地域の特性を活かした企画が注目を集めています。

今後は、地域資源を活用した独自性と持続可能性がカギとなります。
地方の観光資源や文化を活かし、地元商店街や農業、伝統工芸と連携した体験型宿泊を提供することで、地域全体の魅力を高めることができます。
また、ワーケーションやエコツーリズムの需要が拡大し、それに応じたサービスの提供が求められるでしょう。
さらに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、効率化と顧客満足度の向上を図ることも重要になります。

地域経済と一体となったホテルの運営モデルは地域活性化のエンジンとなります。
ホテル・観光業による地方創生で、人口減少や高齢化など地方が持つ課題を解決し、地方都市の持続可能な未来を実現することができるのです。